| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-10 (Oral presentation)
バイカル湖に生息する固有のカジカ科魚類(バイカルカジカ類)は、湖内で独自の適応放散を遂げたグループであり、形態や生態がカジカ科魚類の中でも特殊化している。特に、近縁種に体外受精種と体内受精種を有する、脊椎動物全体を見回しても極めてユニークな分類群である。単系統群に異なる受精様式を持つ本グループは、受精様式の進化が精子の形態にどのような影響を及ぼすかを解明する上で格好の分類群であるが、今までバイカルカジカ類の精子の研究は全く行われていなかった。本研究では、卵生の体外受精型カジカ3種Cottocomephorus grewingkii、Leocottus kesslerii、Paracottus kneriiと卵胎生の体内受精型カジカ1種Comephorus dybowskiiを潜水調査と船での底引き網および仔魚ネットで採集し、精子の形態と運動性を調べた。その結果、受精様式によって精子の形態や運動性は大きく異なっていた。体内受精種も体外受精種もどちらの精子も丸い頭部を持っていたが、その表面積は体内受精種で有意に小さく、これは粘性のある卵巣内で、より抵抗なく泳ぐための適応だと考えられた。また、体内受精種は、体外受精種よりも長い精子を有しており、さらに遊泳速度が速かった。これは、受精様式の進化にともなう精子競争の激化が関わっている可能性が示唆された。体外受精種の精子の運動性は、種によって様々であったが、体内受精種の精子は湖水では全く運動せず、体内環境を再現した等張液でのみ活発に運動した。さらに、体内受精種の精子の運動時間は10分以上と体外受精種よりも長かった。以上のことから、バイカルカジカの精子の形態や運動性は、繁殖様式の進化に伴って適応的に進化したことが本研究により初めて明らかになった。