| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-11 (Oral presentation)
シロアリの消化管内にはパラバサリア類・オキシモナス類の原生生物が共生して群集を形成し、木質分解に重要な役割を果たす。原生生物種の組成は一般に宿主種に特異的であり、これはコロニー創設に際し、原生生物が新王と女王の母巣から継承されることを反映する。
日本列島のヤマトシロアリ属の種にはヤマトシロアリ、カンモンシロアリ、アマミシロアリ、ミヤタケシロアリ、オキナワシロアリ、ヤエヤマシロアリ、キアシシシロアリが知られ、琉球列島で地域ごとに種分化している。その原生生物群集の種組成は、宿主種に特異的であり、トカラ列島の南北で大きな差があることが示されている。これらは宿主の系統と地史が原生生物組成を決定するという考えを支持する。しかし最近、ヤマトシロアリとアマミシロアリの分布境界であるトカラ列島で、通常はヤマトシロアリ特異的な種がアマミシロアリ腸内から見出された。これは異種間の交雑と原生生物の種間移入があったことを示唆する。
本研究では、交雑の痕跡が原生生物組成に残されている可能性を探るため、本州、九州、屋久島、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島、沖縄島、久米島、北部宮古諸島、多良間島、石垣島、西表島、与那国島で本属のコロニーを採集し、70コロニーについてSSU rRNA遺伝子の部分配列の網羅的読取りによる組成調査を行った。
その結果、ヤマト-アマミの分布境界域であるトカラ列島のヤマトシロアリ、アマミ-オキナワ境界域である沖永良部島のアマミシロアリ、オキナワ-ヤエヤマ境界域である北部宮古諸島のオキナワシロアリで、それぞれ分布を接する異種宿主に由来すると考えられる配列が見出された。このことは、従来考えられていたより頻繁に、近縁なシロアリ種間で交雑を介した原生生物の流入が生じ、これが組成の進化に影響を与えてきたことを示す。