| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-02  (Oral presentation)

新型コロナウイルスの潜伏期間の進化解析
Evolution of stealthy transmission in emerging coronaviruses

*熊田隆一(東京大学), 佐藤正都(総合研究大学院大学), 佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Ryuichi KUMATA(The Univ. of Tokyo), Masato SATO(The Grad. Univ. for Adv. Stu.), Akira SASAKI(The Grad. Univ. for Adv. Stu.)

世界中で流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の重要な特徴として、症状を発症していない感染個体による不顕性感染が知られている。SARS-CoV-2による感染では、感染してから発症するまでの期間(発症期間)は5日程度である一方、感染者が感染してから感染力を持つまでの期間(潜伏期間)がおよそ3日程度であることが推定されている(He et al., Nat Med 2020)。しかし、SARS-CoV-2と近縁のSARS-CoV-1による感染においては、発症期間が同じく5日程度であるにもかかわらず、潜伏期間はそれよりも長いことが示唆されている(Peiris et al., Lancet 2003)。つまり、二つの近縁なウイルスは異なる潜伏期間を持つという点で対照的である。しかし、潜伏期間がどの様に進化的に定まっているのか、流行に伴いどの様に変化していくのかは不明である。そこで、我々は、ウイルスの潜伏期間の進化を考察するために、感染者を、症状の有無、および感染力の有無で区別し、発症と感染力獲得が独立な、2種の経路による状態遷移を組み込んだ疫学モデルを構築した。宿主体内でのウイルスと免疫応答のダイナミクスから自然に生じるウイルス形質間のトレードオフの下で、ESSとなる潜伏期間を考えることで、二種のコロナウイルスの潜伏期間の適応的な違いを考察することが可能となる。また、流行ダイナミクスが定常状態となっている状況では、基本再生産数を最大化する形質がESSとなるが、流行の初期段階においては、マルサス係数を最大化する形質がESSとなる。そこで、それらの違いを踏まえて、潜伏期間のESSを考えることで、流行に伴い潜伏期間がどの様に変化するを明らかにした。さらに、流行の対策として実施される、陽性者の隔離とソーシャルディスタンスが、それぞれどの様に潜伏期間に影響を及ぼすかを考察した。


日本生態学会