| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-03 (Oral presentation)
(目的)伝染病動態の将来予測をリアルタイムで可能にする推定量、実効再生産数Rtに着目して、SARS-CoV-2の日本での流行を解析した。特に、(1)ウイルスのスパイク遺伝子の多型で、実験的に複製効率に有意な差が検出されている、スパイク遺伝子中の614番目の座位がDを持つ系統(614D)からGを持つ変異型系統(614G)への日本におけるシフトが、Rtの推定量にどのような影響を与えたか、及び(2)Rtの推定値の時間変化が、各種のMobility Trendsによってどの程度説明できるかに注目して解析を行った。
(方法)一般に、遺伝子型ごとのPCR陽性数のデータは得られないので、遺伝子型ごとのRtを推定するのは難しいが、我々は以下のような手順で解析した。まず、少数ながら論文に公表された日本のSARS-CoV-2配列のサンプルの陽性確定日のデータから、back projectionにより、それぞれの系統の遺伝子型による感染の起きた数の時間変化を推定した。この推定された系統別感染数の時系列データによってPoisson感染過程のもとで定義される尤度をもとに、各遺伝子型のRtの時間変化を推定した。
(結果)D614G変異への遷移が3/20-4/10にかけて起こったことが、ロジスティク回帰およびノンパラメトリック推定の双方で確認された。推定された614G系統のRtは、両系統が共存した全区間でコンスタントに1.5倍程度、元の614D系統よりも高かった。これによりD614Gが日本に侵入していなければ、3月中頃で流行が終焉したことが示唆された。3月末に向けてのRtの上昇は、D614AとD614Gの両方についてみられたことから、このRtの上昇は系統の遷移だけによっては説明できず、3月末に向けての人の活動性が増加したことが寄与したと結論された。2月中旬から7月までの日本のRtの時間変化は、AppleとGoogleが公開したMobility trendsと非常に良い一致を示した。