| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-01  (Oral presentation)

ステージ構造を示す水産有用種のメタ個体群動態モデル
Metapopulation model of fishery species with stage-structure

*別所和博(埼玉医科大学), 堀正和(水産研究教育機構), 佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Kazuhiro BESSHO(Saitama Medical Univ.), Masakazu HORI(FRA), Akira SASAKI(SOKENDAI)

 アワビ類を始めとする海産無脊椎動物の多くは生活史に浮遊幼生期を含み、海流に流されることで移動分散し、着底後に移動性の低い稚貝、成貝になる。この生態学的特徴から、これらの水産有用種は生息適地が移動分散で接続されたメタ個体群構造を示し、資源管理における空間構造の重要性が指摘されている。
 本研究では、これら水産有用種の生活史と空間構造を明示的に反映した数理モデルを連立微分方程式により構築し、メタ個体群の安定性について分析した。なお、数理モデルを構築するにあたり、稚貝のサイズ依存的な死亡や殻長による漁獲制限を念頭に置き、着底したばかりの稚貝と漁獲対象となる成貝のステージ構造をモデルに組み込んだ。
 解析の結果、空間の異質性やステージ間の死亡率の違いをその要素に反映した非負行列の最大固有値により、メタ個体群の質を評価できることが明らかになった。特に、移動分散率で決まるネットワークが完全に均質であるとき、その最大固有値は局所個体群における増殖率に相当するパラメータの算術平均に一致する。また、ネットワークが部分的に均質な場合について調べたところ、ネットワークが均質に近い場合は最大固有値を増殖率の算術平均で、移動分散がほとんどない場合には、最大固有値を増殖率の最大値でそれぞれ近似可能であることがわかった。


日本生態学会