| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-02 (Oral presentation)
農業における重要な問題の一つとして、害虫の発生が挙げられます。そのため、多くの場合、農薬などを使用して害虫の駆除が行われます。しかし、農薬を使用した直後には害虫の数が減少するものの、時間が経つと農薬を使用する前よりも害虫の数が増えてしまう場合があります。このような害虫駆除における逆説的な現象は、農業において「リサージェンス」と呼ばれます。過去の実験において、農薬の使用によって害虫の天敵となる生物も減少し、その結果害虫が増加するという流れが、リサージェンスが発生する原因であると示唆されています。そこで、害虫を含む複数の生物種の間の相互作用を組み込んだ離散時間個体群動態モデルを用いて、駆除の影響を考慮に入れることで、リサージェンスが発生しないような駆除の条件を調べます。
この研究では、Matsuoka and Seno (2008)で提案されている、寄主が1種と寄生者が1種の2種系のモデルを基にしています。このモデルでは、寄主が農業における害虫であり、寄主に対して駆除を行うものとします。ただし、寄主に対する駆除の割合に応じて、寄生者も直接駆除の影響を受けるものとしています。また、寄主が寄生から逃れる確率や、寄主の繁殖率に影響する種内密度効果に具体的な関数を与えています。これらの寄主内の競争と寄主―寄生者間の競争が、リサージェンスが発生しない条件に影響を与えます。
今回はこのモデルに寄主を1種追加した3種系で、寄主同士が直接競争する場合について調べます。寄主は2種ともに害虫、すなわち駆除の対象であるとします。このとき、異なる寄主間の競争や、寄主ごとの寄生者との競争の違いといった、2種系の場合には無かった相互作用リサージェンスが発生しない条件に影響を与えることになります。具体的な関数を与えた場合の条件だけでなく、一般的な関数についての条件を導出し、幅広く活用できるような条件を導出することを目標としています。