| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-04  (Oral presentation)

Predator-prey game predicts the diel foraging patterns of sharks 【B】

*Koichi ITO(UBC), Andrew HIGGINSON(Univ. of Exeter), Graeme RUXTON(Univ. St. Andrews), Yannis PAPASTAMATIOU(Florida Inter. Univ.)

海洋の代表的捕食者であるサメ類は、昼行性から夜行性、薄明薄暮性など、その活動時間帯が極めて多様であることが知られている。こうしたサメ類の活動時間帯は、これまで採餌対象の活動時間や光・海水温などの外環境の変化といった側面から説明が試みられてきたが、その多くは個々のケースにのみ当てはまるものであり、多様なサメ類の活動時間を統一的に解釈可能な説明はいまだなされていない。本研究ではサメ類の多様な活動時間を説明するために、捕食者被食者間の活動時間帯をめぐるゲーム的な相互作用に注目した。サメの活動時間帯は、体温や光量などの日内変動する環境要素に加えて、獲物である小魚が活動する時間帯が重要な要素であると考えられる。一方で、小魚は捕食を逃れるためにサメの活動時間帯を避けて活動しようとするため、結果として捕食者・被食者の最適な活動時間帯は相互に影響を及ぼしあうことになる。そこで、捕食者が被食者の新たな戦略に対して十分早く応答できることを仮定しつつ、相互の最適化の結果安定状態となる活動時間帯を、理論モデルを用いて数値的に解析した。結果、小魚にとってのサメの捕食圧の強さとサメの遊泳速度の組み合わせによって、夜行性から昼行性まで極めて多様な活動時間帯が生じうることが明らかとなった。体サイズが大きいほど体温の日内変動が緩やかになるため、沿岸域ではサメの体サイズの増加につれて相対的に昼行性から夜行性や薄明薄暮性へとシフトする傾向が見られた。一方、沖合のような被食者にとって安全な隠れ家が少ない地域では、体サイズに関わらず夜行性や一日中活動するパターンが卓越した。さらに、近年一部のサメで報告されていた「日没後深夜まで長く活動する薄明薄暮様の活動パターン」も、広いパラメータ範囲でみられることを明らかにした。以上のように、本研究はサメ類の多様な活動時間を統一的に説明しうる新たな理論モデルを提唱するものである。


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