| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-06 (Oral presentation)
日本の高山植物は、気候変動による生育適地の減少、登山客の増加による生育環境の悪化、盗掘、シカによる食害などにより、減少が懸念されている。高山植物の保全を行ううえで、保全策に対する一般市民の意識を明らかにすることは重要である。また、高山植物の保全に対する協力を募るためには高山植物の重要性や危機に関する情報提供を行うことが重要と考えられる。そこで本研究では、高山植物の保全策に対する一般市民の支払意思額をインターネットアンケート調査の選択型実験の結果から推定するとともに、情報提供が支払意思額に与える影響についても評価した。調査では、全国の20代から60代の男女8622人から有効回答を得た。保全に対して極めて協力的な人々、現状維持を望む人々、中間的な人々の3パターンが観測され、個人の一生涯における支払意思額の平均値は141,726円であった。また、高山植物の種数を重視する保全策が最も高く評価される傾向があり、次に面積、景観を重視する保全策が高く評価される傾向がみられた。情報提供の効果については、1)短い文章と写真による説明、2)長い文章と写真による説明、3)動画による説明を行った場合のいずれも情報提供なしの場合と比べて支払意思額が微増(それぞれ7.97%、4.74%、4.75%増加)したが、性別やその他の回答と有意な交互作用も示した。情報提供は、高山が森林に置き換わることで二酸化炭素が吸収される効果に対する認識に顕著な影響を与えており、情報提供なしの場合には人々の認識にほとんど多様性がなく誰もが肯定的に評価していたのに対し、情報提供を受けた場合では高山植物が森林に置き換わることを高く評価する人もいれば低く評価する人も存在した。特に、長い文章と写真による説明を与えた群では高山植物が森林に置き換わることをネガティブに評価する人が存在しており、情報提供によって保全に対する人々の協力意思を誘導しうることが示された。