| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-08  (Oral presentation)

海洋学習を通して中学生の「地元(海)」に対する意識はいかに変容したか 【B】
How did junior high school students' perceptions of "local area (sea)" change through marine education program? 【B】

*桜井良(立命館大学), 上原拓郎(立命館大学), 近藤賢(備前市立日生中学校), 藤田孝志(備前市立日生中学校)
*Ryo SAKURAI(Ritsumeikan University), Takuro UEHARA(Ritsumeikan University), Ken KONDO(Hinase Junior High School), Takashi FUJITA(Hinase Junior High School)

 海洋や海洋資源の保全及び持続可能な利用は世界共通の目標であり、そのためには海洋について理解や関心を深めるための一般市民への教育が重要である。本研究では、総合的な学習の時間を使い海洋学習を行ってきた岡山県備前市立日生中学校を対象に、全校生徒へのアンケート調査(n=131)より、生徒の海への意識や保全意欲などを明らかにした。
 結果、地域への愛着や地元の海を保全することへの意欲など9つの項目において、学年ごとに平均値は差が見られなかったものの、自由回答の分析より2,3年生は1年生より海洋学習で学ぶ内容に関する記述(例:再生活動、アマモ)が増えること、また絵の分析より3年生は1,2年生と比較して海の中の生物の豊かさについて描写する生徒が多いことが明らかになった。本研究では、複数の手法(自由記述、絵の描写など)を用い分析したことで、一つの調査手法(例:リッカート尺度の項目)だけでは知ることができない多様な生徒の意識や考え方を抽出することができた。また重回帰分析より地域や地元の海への興味関心や愛着がある生徒ほど、日生の海に対する保全意欲が高いこと、更に人(家族、地域の人、友人など)とのつながりが深まるほど、将来に対して肯定的なビジョンを持つようになることも示された。
 日生中の海洋学習は、生徒に海に関する知識を伝達するだけでなく、地元の人との交流や漁師との協働に力点を置いており、このことが生徒の地域への愛着を深め、海に対する保全意欲を高めることが示唆される。一方で、アンケート結果より、海の生態系に関する知識において一部、誤解している生徒がいることも明らかになった。今後は、海洋学習としては、科学的な知識(生物多様性など)や地域性(日生の海の歴史など)を教えるとともに、地方再生(過疎対策など)と関連付けた教育プログラムへと改善してゆくことが求められる。


日本生態学会