| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-06  (Oral presentation)

シカにより衰退した植生の回復に不嗜好性植物の優占と種子供給量の減少が与える影響
The effects of dominance of unpalatable plants and reduced seed supply on vegetation recovery from deer overgrazing

*Tomotaka FUJII, Masae ISHIHARA, Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.)

 近年 、大型有蹄類の個体数が低下しても、従来の植生が回復しない事例が報告されるようになってきている。その原因については未だ明らかになっていない。回復力低下要因を解明することは、植生保全策をより効果的・効率的に行うために不可欠である。本研究では、ニホンジカの不嗜好性植物による嗜好性植物の回復阻害、嗜好性植物の種子散布制限、ニホンジカの個体数が低下しても採食量に対し植生回復量が小さいため回復しないという3つの要因に関し野外操作実験により検証した。
 本研究は京都大学芦生研究林内の草地にて行った。約10年前に設置されたシカ防除柵が3基(既存柵)あり、柵内では嗜好性植物が優占している。柵外では不嗜好性植物のイワヒメワラビやイグサが優占している。これらの既存柵に隣接するように2019年に新たに柵を5基設置した。同年、新規柵内において、植物体の地下部や土壌を含め除去した剥ぎ取り区、地上部の植物体のみ除去した刈り取り区、無処理の対照区を設定し、柵外対照区と植生回復過程を比較した。
 処理1年後の種数、種多様度指数、嗜好性植物の被度はいずれも、柵外対照区に対し柵内対照区で高かったため、シカの個体数密度が低くても嗜好性植物への採食圧が高いことが示された。さらに、柵内刈り取り区は、柵内対照区よりも多様性や嗜好性植物の被度が高かったため、不嗜好性植物による回復阻害が生じていることが明らかになった。剥ぎ取りは刈り取りに比べ労力もかかり、回復も限定的であった。またアシウアザミなどの既存柵内で優占していた特定の嗜好性植物は既存柵近傍にのみ出現し、種子の散布制限が生じていた。
 これらの結果から、植生衰退が長期間つづいている草地において、植生を回復させるためには、シカ防除柵に加え、不嗜好性植物の刈り取りや種子供給源の外側に新たな柵を設置することが有効だと考えられた。


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