| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-08 (Oral presentation)
集団の年齢構成は絶滅リスクに大きく影響するため、年齢の把握は重要である。しかし、ネコ科動物の場合、性成熟後は顕著な外形の変化が見られない。また、歯の変化は生前に観察することが困難なため、形態学的観察から大規模な年齢推定調査が難しい。本研究では、加齢に伴うDNAメチル化率の変化に着目して、血液サンプルから年齢の推定を試みた。イエネコ(Felis catus)(65個体)とユキヒョウ(Panthera uncia)(国内動物園の飼育個体7個体12試料)を対象とした。個体の健康状態による年齢の推定精度への影響を評価するために、イエネコについては、健康な個体以外に、ネコ科動物が最も罹りやすい病気とされている慢性腎不全の個体も対象とした。ELOVL2とRALYLの2遺伝子の一部領域のメチル化率を、メチル化感受性高解像度融解分析(MS-HRM)を用いて検出した。サポートベクター回帰(SVR)で年齢推定モデルを構築し、一個抜き交差検証(LOOCV)でモデルの検証を行った。
イエネコでは、2遺伝領域のメチル化率はいずれも年齢と有意に相関していた(ELOVL2: cor = 0.52, p < 0.001; RALYL: cor = 0.52, p < 0.001)。年齢推定モデルから推定した年齢の平均絶対偏差(MAD)は2.51歳であった。特に健康状態の良くない腎不全の若い個体(10歳以下、9個体)を結果から除いた場合、年齢推定モデルの平均推定偏差は1.85歳まで改善した(対象としたネコの最高齢であった20歳の9.3%に相当する偏差)。すなわち、本モデルは健康な個体に対して、比較的高い推定精度で年齢を予測できた。
また、ユキヒョウにおいても同遺伝領域を用いて年齢推定モデルを構築した結果、イエネコと同程度の精度が得られた(平均絶対偏差=1.65)。今後より多くのサンプルで解析を進めることで、他のネコ科動物の年齢推定への応用も期待されるだろう。