| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-01 (Oral presentation)
著者らはこれまで山口県下関市の照葉樹林に生息するイノシシ(Sus scrofa)の食性を長期にわたってモニタリングしており,彼らがどんぐりの中でもツブラジイ(シイの実 : Castanopsis cuspidata)に強く依存していることを発見した(Omori and Hosoi unpublished).シイの豊作年には,11月から翌年6月までシイの胃内容物中の占有率が高かったのに対し,不作年には1月からタケノコの消費量が増えていた.また豊作年にはイノシシの栄養状態が良くなり,翌年の出産ピークも不作年に比べ早まっていた.さらに不作年には農作物被害(特に,イモ類や野菜類)が増加する傾向があった.
このようにシイの豊作は,イノシシの行動に大きな影響を与える可能性がある.イノシシの捕獲方法には,大きく分けて箱罠,くくり罠,銃猟の3つがある.このうち,箱罠は誘引餌を用いる手法である.箱罠内の誘引餌の価値は,罠周辺の食物資源の質や量で相対的に変化し,その相対的価値が周辺の食物資源よりも高くなければ,警戒心の強いイノシシを箱罠内まで誘導することは困難である.狩猟期間とイノシシによるシイの利用時期が一致することから,我々は箱罠による捕獲効率はシイの豊凶によって大きく変わるのではないか,誘引餌を用いないその他の捕獲方法は豊凶の影響を受けないのではないかという仮説を立て,CPUE(Catch Per Unit Effort)を算出し比較した.
その結果,箱罠による捕獲効率CPUEはシイの不作年には捕獲効率が豊作年に比べ数倍高くなっていた.一方で,くくり罠と銃猟によるCPUEはシイの豊凶に対して一定の傾向を示してはいなかった.
現在ハンターの高齢化や減少が問題になっている中で,効率的な捕獲方法が求められている.シイの豊作年には銃猟やくくり罠で,不作年には箱罠での捕獲を推奨するなど,堅果類の豊凶周期に合わせて捕獲方法を選択する必要があるだろう.