| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-11 (Oral presentation)
2019年10月,台風19号が日本を直撃し,各地で記録的な大雨をもたらした.長野県を流れる千曲川においても観測史上最高の水位を記録し,堤防の決壊など甚大な被害をもたらした.気候変動に伴い異常気象の頻度・規模の増加が予想されることから,このような突発的なイベントに対する河川生態系の応答・回復過程を理解することは,将来的な影響予測や生態系に配慮した適応策の策定などに資すると考えられる.
そこで本研究では,台風19号に伴う大規模出水がバクテリア群集に及ぼす影響を明らかにするため,2019年2月から2020年11月まで千曲川中流域において,河川水および河床バイオフィルムを対象に生産速度と群集構造の観測を行った.大規模出水の影響と群集の回復過程を,台風前の2019年2月から10月のデータをコントロールとして比較し,月単位の長期的な時間スケールで考察した.
河川水およびバイオフィルムのバクテリア生産速度は,それぞれ春,夏に極大を持つ季節変動を示した.両者の水温に対する応答は出水前後の期間で顕著な変化は見られず,バクテリア生産に及ぼす出水の長期的な影響は認められなかった.群集構造に関しては,河川水とバイオフィルムで応答が異なった.河川水のバクテリア群集構造は3つのクラスターに分類され,それぞれ4月,5月~10月,11月~3月と,出水前後の区別なく明確な季節変動が見られた.このことから,今回のような大型出水イベントであっても河川水のバクテリア群集構造に対する影響は軽微であったと推論できた.一方,バイオフィルムの群集構造は出水直後に大きく変化し,数ヶ月間同様の群集構造を維持した.その後,2020年5月以降に出水前に見られていた群集構造へと回復した.以上のように,バクテリアは世代時間が非常に短い生物群集にも関わらず,バイオフィルムのようなハビタットにおいては大規模出水によるリセットから群集構造の回復には数か月を要することが示唆された.