| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-02 (Oral presentation)
生物は、遺伝子の制御を通して、多様な時間スケールで変動する環境要因に適応している。環境の短期変化に対する遺伝子制御は、従来、実験室環境下で調べられてきたが、長期変化については知見が限られている。発表者らは、アブラナ科ハクサンハタザオの自然集団を対象として、遺伝子制御に密接に関わる、ヒストンタンパク質につく化学的修飾(ヒストン修飾)の日内および季節変化を全遺伝子レベルで調べた。その結果、遺伝子発現を抑制する働きがある抑制型ヒストン修飾は、多くの遺伝子で、1. 日内では安定であるが季節的に可変であること、2. 長時間かけてゆっくり季節変化することがわかった(Nishio et al., 2020 Nat. Plants)。これらの結果は、抑制型ヒストン修飾が長期的な遺伝子の制御を担うことを示している。
動物の胚発生や細胞のガン化においても、抑制型ヒストン修飾による遺伝子制御が関わるため、遺伝子の長期制御と進化的保存性の関係は興味深い。発現遺伝子の進化的な古さの指標として、各遺伝子の進化的保存性を数値化し発現量で重み付けした、Transcriptome Age Index(TAI)がある。TAIが高いと進化的に新しい遺伝子群の発現が高く、TAIが低いと進化的に古い遺伝子群の発現が高い。発表者らは、ハクサンハタザオ自然集団において、TAIは冬に低く、夏に高くなることを発見した。これは、冬には進化的に古い遺伝子が、夏には進化的に新しい遺伝子が優先的に発現していることを示している。また、抑制型ヒストン修飾量で重み付けしたAge indexを算出したところ、TAIとは対照的に冬に高く、夏に低くなっていた。したがって、抑制型ヒストン修飾の季節変化は、発現遺伝子の進化的な古さと密接に関わると考えられる。今後、複数植物種間でヒストン修飾の季節変化を比較することで、季節的な遺伝子制御の進化プロセスを明らかにする。