| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-004 (Poster presentation)
台風やハリケーンなどの強い熱帯低気圧は,低頻度だが大規模な森林攪乱を起こす要因の一つである.中大型哺乳類のような長寿命な生物は,これらの攪乱の影響を緩和するような行動上の応答を示すと予想される.また,大規模な攪乱によって生じた森林の物理的構造を,事後的に利用している可能性もある.しかし,熱帯低気圧は低頻度な事象であるがゆえに計画的な研究が難しく,これらの点についてはほとんど研究されてこなかった.そこで本研究では,房総半島南部地域において,台風到来時における活動レベルの増減を,自動撮影カメラを用いて定量的に評価した.具体的には,ウェザーニュースから購入した空間解像度の高い気象情報を用い,撮影確率に及ぼす降水量および風速の影響を状態空間モデル(ローカルレベルモデル)によって評価した.また,これとは別に,台風によって生じた風倒木が中大型哺乳類にどのように利用されているのかを調査した.これらの結果,台風到来時には,中大型哺乳類の活動レベルが顕著に低下することが分かった.降水量は動物種に関係なく活動レベルに負の影響を与えており,降水量が高くなるほど負の影響は大きくなることが分かった.これに対して,風速は,イノシシ・タヌキ・アライグマ・アナグマ・ハクビシンには正の影響の与え,シカ・キョン・ネズミ類には負の影響を与える傾向が見られた.ただし,台風到来時にも頻度は低いものの動物が撮影されることもあり,台風の影響の程度は,場所によって異なる可能性が考えられた.一方,台風による風倒木は,中大型哺乳類の重要なハビタットとなっていることが明らかになった.実際に,イノシシがエサを探索する様子や,テンが風倒木内に滞在する様子が撮影された.本研究における自動撮影カメラ設置期間は,約1年間であったが,さらに長期的に設置することで,風倒木の腐植に伴う変化を明らかにできるだろう.