| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-005 (Poster presentation)
マルハナバチタマセンチュウ(以下タマセンチュウ)はマルハナバチの女王に寄生し、その行動を操作する寄生虫である。寄生された女王は不妊化し、営巣しなくなることが知られている。しかし、この寄生虫に関する研究は非常に少なく、その生態に関しては曖昧な点が多い。例えば、この寄生虫は宿主であるマルハナバチ女王の移動分散を抑制すると言われているが、その具体的な証拠は報告されていない。マルハナバチの種間で水平感染が起きているのかも分かっていない。
本研究の目的は、(1)タマセンチュウが宿主の移動分散を抑制しているのか、(2)宿主種間で水平感染が起きているのか、を明らかにすることである。これらの目的のため、富山県と北海道で採取したマルハナバチ複数種と、富山県、北海道、オランダ、イギリス、アイルランドで採取したタマセンチュウの集団遺伝構造を解析した。マルハナバチの遺伝マーカーには8つのマイクロサテライト領域を、タマセンチュウの遺伝マーカーにはミトコンドリア遺伝子CO1領域(417bp)と核遺伝子18SrRNA~28SrRNA領域(ITS1,2領域を含む、約2500bp)を用いた。
以下の結果が得られた。1、100km以下の空間スケールでは、同種のマルハナバチ集団には遺伝的な分化は生じていない。2、100km以下の空間スケール内でも、同種のマルハナバチ種に感染しているタマセンチュウの地域集団間には、顕著な遺伝的な分化が生じている。3、同じ場所で採取された別種のマルハナバチに感染していたタマセンチュウの集団間には遺伝的な分化が生じている。4、ミトコンドリアハプロタイプが同じタマセンチュウや、核の遺伝子型が同じタマセンチュウが、複数の異なる宿主種に感染している。
1、2の結果からは、タマセンチュウに感染したマルハナバチ女王の移動分散が、強く抑制されていることが伺えた。3、4からは、宿主種間での水平感染は、低い頻度ではあるものの、起きていることが示された。