| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-008 (Poster presentation)
アリやミツバチなどの真社会性ハチ目昆虫はコロニーと呼ばれる単位で集団生活し、個体間相互作用を基盤とした高度な分業社会を構築している。その一方で、多くのアリ種は閉鎖的な空間に高密度で生活しているため、ランダムな個体間相互作用はコロニー内での病気のエピデミックを引き起こす可能性がある。近年では、エピデミックを防ぐ特徴的な個体間相互作用によってコロニーの崩壊を防ぐ仕組み (社会性免疫) が進化していると考えられている。また、社会性免疫の他にそもそも昆虫は個体レベルの自然免疫機構を有しており、コロニーレベルと個体レベルの免疫機構が相補的に働くと考えられている。しかしながら、社会性ハチ目における後者に関する知見はミツバチを除いて乏しい。本研究では、社会性昆虫における個体免疫の役割を解明するため、日本産トゲオオハリアリの行動カースト (内役ワーカーと外役ワーカー) を対象にして、遺伝子発現解析と生存実験により自然免疫のレベルを調査することを目的とした。まず初めに、野外で採集したカースト間の6つの免疫関連遺伝子 (PPO, Toll, Imd, Relish, Hymenoptaecin, Defensin) の発現量を比較した。結果、外役ワーカーではHymenoptaecinが高発現していた一方で、内役ワーカーではDefensinとPPOが高発現していた。これらの結果は、免疫関連遺伝子の応答性が何らかの影響によりカースト間で異なることを示唆する。次に、各カーストにおける病原性微生物に対する抵抗性を比較するために、昆虫病原性細菌の一種であるPseudomonas entomophilaの人為的感染によるワーカーの生存実験を行った。その結果、非感染の個体に比べて感染外役ワーカーでは生存率が減少した一方で、感染内役ワーカーでは違いは見られなかった。このことから、内役ワーカーは強い免疫活性を持つことが示唆された。最後に、本研究で示された分業と個体レベルの免疫の関係から免疫応答を引き起こすメカニズムについて議論する。