| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-012 (Poster presentation)
普通種は絶滅の危機にある希少種に比べ保全上の対象となりにくい傾向にあるが、近年では、個体数の多い普通種が食物連鎖や生態系機能の面でむしろ大きな影響力を持つ可能性も指摘されている。日本固有種であるアカネズミApodemus speciosusは、北海道から九州までの全域に分布し、生息環境も多様であることから、日本では最も一般的な小型哺乳類だと言うことができる。しかし演者らの最近の調査によって、岡山県ではアカネズミを含む小型齧歯類の生息密度が非常に低くなっている可能性が示された。小型齧歯類はそもそも環境の変化に応じて個体数を大きく変動させることから、本研究では、1)この低密度状態が一時的に生じたものなのか、それとも恒常的なもので個体群が絶滅に向かっているのか、2)もしそうであるなら低密度化を引き起こしている要因は何なのかを明らかにすることを目的とした。2020年から2021年にかけて、シャーマントラップを用いた小型哺乳類の捕獲調査を森林環境に限定した上で3つの地理的なスケール(岡山市街地に隣接した森林1地点での個体群のモニタリング、都市部の森林面積の異なった孤立林12地点での捕獲調査、県東部の森林47地点での都市化傾度に沿った広域捕獲調査)で実施した。調査の結果、どのスケールにおいてもアカネズミの低密度化が進行しており、岡山県での低密度化は恒常的なものであると考えられた。県東部では都市化の程度が高いほど生息密度が低くなる傾向が見られた。したがって低密度化の要因の一つは都市化である可能性が考えられたものの、比較的自然度の高い北部地域においても他県と比べて著しい低密度状態にあることから、その主要因は他にあると思われた。岡山県のアカネズミ個体群は地域絶滅の危機にあることから、その減少要因を特定した上で、アカネズミを起点とする生態系に悪影響が生じていないのかを早急に調査する必要がある。