| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-021 (Poster presentation)
生物群集は複数の群集がまれな移動分散でつながったメタ群集を形成することがある。このようなメタ群集では種間相互作用と局所群集間の移動分散が重要な構成要素とされる。特に、移動分散はその程度によって、構成種の絶滅や群集の再構成という複雑な動態を生じさせることもある。これらの要素の検出には直接観測を行うものとDNA情報から相互作用や移動分散を推定するものがある。DNAを利用した推定は直接観測に比べて対象とできる種が広く、多くの相互作用を検出できる一方で、遺伝子型を決定するマーカーを作れなければ移動分散の推定が困難という課題がある。本研究では次世代シークエンス技術の一つであるMIG-seqを用いて野外の潜葉性昆虫-寄生蜂群集の種同定と遺伝子型の決定を同時に行うことが可能であるかを検証した。
種が不明のサンプルと既知の種のDNA(リファレンス)をMIG-seqにかけ、系統樹をもとに種同定を行い、COI領域を利用した種同定の結果と比較した。その結果、宿主である潜葉性昆虫においては高い精度で種を同定することができ、個体レベルでSNPsによる遺伝子型の同定もできた。一方で、寄生蜂の同定ではMIG-seqで得られたリードから寄生蜂の配列のみを抽出することができず、種の同定に至らなかった。この違いは潜葉性昆虫と寄生蜂で利用できるリファレンス配列の種数によるものだと考えられた。潜葉性昆虫について、MIG-seqによる種同定の結果とCOIによる種同定の結果を用いて群集構成を比較すると、全体的にMIG-seqのほうが群集間の非類似度を小さく推定したが、両者の群集間非類似度は強く相関し、MIG-seqによる同定がCOIによる同定と同程度に群集解析に利用できることが示された。
以上の結果より、十分なリファレンスデータがある種については、MIG-seqを用いることによって種同定と遺伝子型の同定を同時に行うことが可能であることが示された。この結果より、群集動態を調べるうえでMIG-seqが有効な手法であることを示すと考えられる。