| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-030  (Poster presentation)

南九州の森林における標高傾度に沿った有剣ハチ群集と遺伝的多様性の変化
Changes of community and genetic diversity along altitude in forests of south Kyushu

*上森教慈, 三田敏治, 菱拓雄(九州大学大学院)
*Kazushige UEMORI, Toshiharu MITA, Takuo HISHI(Kyushu Univ.)

有剣ハチ類の持つ送粉や捕食など重要な生態系機能は、気候変動や生息地改変などにより失われることが懸念されている。この喪失リスクの解明には、遺伝的多様性を用いたボトルネックや個体群の脆弱性の推定が有用である。また、標高傾度は気候変動の影響を推測するモデルとして使われており、九州の山地では標高上昇に伴い有剣ハチ類の種多様性が増加することが発表者らの研究から明らかになっている。高標高に比べ低標高の種多様性が低いことが示されており、これは最終氷期に低地の温暖気候に適応的な南方種が絶滅し、地理的障壁により移入が制限されたことが原因だと推測される。南方種の遺伝的多様性が低ければ、この推測をより直接的に証明することができる。本研究では、遺伝的多様性の解析から、過去に有剣ハチ類が受けたボトルネックを明らかにすることを試みた。九州の森林において幅広い標高で優占している、北方種で送粉者のヒコサンマメヒメハナバチおよび南方種で捕食寄生者のニカコツチバチについて、COI遺伝子を用いて遺伝的多様性を解析した。ヒコサンマメヒメハナバチは29サンプル中1サンプルのみ1塩基の違いがみられた。過去にボトルネックを経験したのち、別の遺伝的集団の移入がなかったため、遺伝的多様性が低くなったと推測された。ニカコツチバチでは複数のハプロタイプが確認され、塩基が5%異なる2つのグループに大別された。コツチバチは種間の形態的差異に乏しく、2つのグループは形態的に区別が困難な別種である可能性がある。また、過去の気候変動に対応できたため集団サイズを維持することができ、遺伝的多様性を保つことができたことが推測された。遺伝的多様性の低下は南方種個体群よりむしろ北方種個体群で起きており、北方種群集の脆弱性が示唆された。しかし、食性の違いが影響している可能性もあるため、北方種捕食者などの遺伝的多様性との比較をする必要がある。


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