| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-035 (Poster presentation)
氾濫原は河川の定期的な氾濫によって浸水する地域であり、氾濫原には河跡湖や後背湿地・池など様々な水域が形成される。本研究では、氾濫期に河川と接続することにより特徴づけられる氾濫原水域生態系の成り立ちについて明らかにすることを目的として、河川の氾濫から収束までの期間に、河川との接続性の異なる水域における生物群集の動態を調べた。さらに河跡湖における魚の有無が動植物プランクトンに及ぼす影響について調べるためのメソコスム実験を行い、その生物間相互作用についても検証した。
結果、動物プランクトンは氾濫が収束して水の流れが止まるにしたがって増殖し、河川との地形的な接続性が低く氾濫時の水の流れ込みが少ない水域ほど密度が高かった。胃内容分析および安定同位体分析による食物網解析の結果、氾濫原に生息する稚魚は、コイ科は動物プランクトンを多く、サケ科は底生生物を摂食していた。さらにプランクトン食のコイ科は河川との接続性が低くプランクトンの多い河跡湖に、底生生物食のサケ科は河川との接続性が高い水域に集中的に分布していることがわかった。メソコスム実験では、魚の捕食によって動物プランクトンの減少と植物プランクトンの増加という典型的な栄養カスケードが引き起こされた。また体サイズの大きな動物プランクトンほど魚の捕食圧を強く受けていた。
これらの結果は、氾濫原と河川との地形的な接続性や孤立するタイミングの相違によって氾濫原水域の生物群集の構造が時空間的に大きく変化していくことを示唆している。水域によって水の流れ込み方が異なることで動物プランクトンの密度に空間的モザイクが生じ、魚のように移動性の高い生物は餌資源の空間的モザイクに合わせて積極的に適した生息地を見つけて侵入していることが示唆された。さらに魚が侵入した水域では魚のサイズ選択的な捕食によって動物プランクトンの種組成が変化すると考えられる。