| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-040 (Poster presentation)
生物は種分化を繰り返すことで多様化するが、種内の遺伝的な多様性は種分化の可能性に大きく影響する。一方、生物種内の遺伝的分化の程度は種の形質に影響を受ける。例えば、飛翔能力の消失が遺伝的な分化を促進することが昆虫をもちいた先行研究で報告されている。飛行能力を失うことによって、生息地間の移動が制限され、集団毎に独自の変異の蓄積が起きることが原因とされているが、飛行能力以外の形質についても、遺伝的な分化に影響すると考えられる。さらに、種内の遺伝的な分化が種分化とどのように関係するかは明らかにされていない。そこで本研究では、昆虫の形質が種内の遺伝的な分化に与える影響を明らかにする。さらに、種内の遺伝的な変異が種分化に与える影響について検討する方法を提案する。まず、昆虫種のFSTを報告した論文をもちいたメタ解析を行った。各種の生活型、食性、生息地などを説明変数、FSTを目的変数として、モデル選択により種内の遺伝的分化に影響する要因を特定した。結果、遺伝的分化の程度は特に植食性や穀物食性の種で強く、デトリタス食性や蜜食性の種では弱い傾向にあった。また、生息地に関しては、乾燥帯において強い遺伝的分化の傾向が見られた。一方、日本列島における普通種昆虫をもちいて、遺伝的分化の程度を種間で比較した。東日本各地で採集したサンプルについて、各調査地点においてそれぞれ10個体程度のミトコンドリアCOI領域の配列を読んだ。分集団内の多様性をHSにより、遺伝的分化の程度をFSTにより算出した。結果、コガタルリハムシとキタキチョウにおいて強い遺伝的分化(FST)が観測された。この2種は植食者であり、他の種と比較して食草の専門性が高く、この違いが遺伝的な分化に影響を与えている可能性がある。また、HSを横軸、FST を縦軸として各種をプロットしたところ、各種が異なる傾向を示し、ボトルネックや集団間の交流などの影響を評価できると期待できる。