| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-041 (Poster presentation)
生態系での生物の捕食-被食関係を明らかにする手法として、炭素・窒素安定同位体測定が用いられてきた。捕食-被食関係が見られる生物間では、捕食者は被食者より炭素・窒素安定同位体比がともに濃縮されることが知られている。一方、水域で見られる寄生生物では、捕食-被食関係と異なり同位体濃縮が負となってしまうことが知られてきたが、その正確な要因はこれまで明らかになってこなかった。そこで本研究では、その要因として(1)寄生生物が餌利用している部位を正確に評価できていない可能性、(2)系統群ごとに寄生生物が異なる同位体濃縮特性を持つ可能性、について検証を行った。
2019〜2020年にかけて琵琶湖周辺の魚類15種、甲殻類1種から寄生生物を採取し、寄生生物の摂食利用を特定した。寄生生物については、安定同位体微量分析手法を用い、宿主部位については従来の手法を用いて炭素・窒素安定同位体比を算出した。その結果(1)に関して、宿主の指標として先行研究で用いられてきた筋肉部位よりも、寄生生物が餌利用していると特定した宿主部位、あるいは消化管内容物を用いた同位体濃縮の方が、より正確な値を算出できることが明らかになった。また(2)に関しては、解析できた6目12種の寄生生物のうち、吸虫類と条虫類では先行研究と異なり、捕食-被食関係に見られるような正の濃縮を示すことが明らかとなった。一方で、線虫類、鉤頭虫類、カイアシ類、等脚類では、やはり捕食-被食関係では見られない特異的な同位体濃縮が見られ、特に線虫類では、その生育ステージの宿主利用に対応した同位体濃縮を示すことが考えられた。また、鉤頭虫類、カイアシ類、等脚類については、それぞれの系統群に対応した特有な代謝経路を持つことが示唆された。