| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-042 (Poster presentation)
湧水性河川は一年を通して安定した水温と流量を持つ。このような環境特異性は生物群集に影響を与え、変動性が大きい非湧水性河川とは明確に異なる生物群集が形成されると考えられる。幾つかの分類群で湧水河川と非湧水河川での群集比較がなされてきたが、生態系の中で大きな影響を及ぼしうる寄生虫に関しては、こういった研究がほとんど行われていない。
本研究では、湧水・非湧水性河川が混在し、両環境の影響を比較するのに適した系である空知川上流部の10河川を調査地に選定し、魚類寄生虫群集とその宿主である魚類群集調査を行い、湧水性環境が魚類寄生虫群集に及ぼす影響を明らかにすることを試みた。
宿主群集は先行研究と同様に湧水環境と非湧水環境で群集組成に明確に差異が見られるという予測の下、寄生虫群集も同様に湧水性河川に特有の生物群集を形成すると仮説立てた。これは、寄生虫群集は直接的な環境要因に加えて、環境の影響を受けた宿主による間接的な影響を受けるためである。
空知川上流の10河川から合計7種209個体の宿主魚類および12種1601個体の寄生虫が得られた。Chao指数を用いて算出した各調査河川の群集類似度に対しNMDSを行った結果、魚類群集は先行研究と同様に湧水河川特有の群集を形成していることが示された。一方、寄生虫群集 (compound community) では、予測に反し、明瞭な違いはみられなかった。これは一部の寄生虫において宿主特異性が弱く、異なる種のサケ科魚類に共通した寄生虫が広く感染していたためと考えられる。また,ハナカジカの宿主個体内寄生虫群集 (infracommunity) に対しては湧水河川の影響が見られた。
本研究では、寄生虫群集組成における湧水・非湧水河川間の違いは一部のみでしか確認されず、その差異はわずかであった。しかし、総合的な結果の解釈から、河川の湧水性は寄生虫群集形成に影響を及ぼしていることが示唆された。