| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-045  (Poster presentation)

潮間帯固着生物群集の遷移の軌道:非攪乱群集への漸近、群集変化の速度と方向
Successional trajectory of intertidal sessile community: approach asymptotically to undisturbed community, speed and direction of community changes

*石田拳(北大・院・環境), 野田隆史(北海道大学)
*Ken ISHIDA(GSES,Hokkaido Univ.), Takashi NODA(Hokkaido Univ.)

遷移の軌道は攪乱後の群集の回復の過程についての洞察を提供するため、その軌道の特徴を理解することは生態系の理解と管理に役立つ可能性がある。遷移の軌道の特徴の内、非攪乱群集への漸近、群集変化の速度と方向に注目することはそれぞれ、多重安定状態、回復の速さと予測可能性に関係しているため、特に重要である。
一般に、遷移の進行に伴う種組成の時間変化には一定のパターンが存在し、攪乱後からの経過時間が進むにつれ、種組成の変化速度は遅くなり(予測1)、種組成の変化の方向性の一貫性も小さくなり(予測2)、攪乱を受けていない群集組成に収束していく(予測3)と考えられている。しかし、このような遷移に伴う種組成の変化の特徴は、主に陸上生態系における植生遷移において認められたものであり、その他の生態系でも広く当てはまるかについては、検証例が少ない。
そこで本研究では、岩礁潮間帯の固着生物群集を対象にこれら3つの仮説が当てはまるかどうかを、北海道太平洋沿岸の2地域(北海道東部、北海道南部)から得られた42個の人工裸地における5年間の遷移データを用いて検証した。
その結果、42個の人工裸地から得られた遷移データのうち、予測1、予測2、および予測3が支持された割合はそれぞれ、2%(1/42)、17%(7/42)、52%(22/42)であった。なお、両地域間で、それぞれの予測の指示される割合に有意差は認められなかった。また、3つの予測すべてが同時に支持された例は存在せず、予測2と予測3が同時に支持された例は、10%(4/42)であった。以上の結果は、岩礁潮間帯の固着生物群集の遷移における種組成の変化のパターンは、陸上の植生の遷移とはかなり異なる可能性を示唆している。


日本生態学会