| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-048  (Poster presentation)

水田水路の水生動物群集に影響する環境要因および空間要因の評価
Environmental and spatial effects regulating fish and aquatic insect communities inhabiting irrigation ditches around rice fields

*岩本英之(東京大学), 田原大輔(福井県立大学), 吉田丈人(総合地球環境学研究所, 東京大学)
*Hideyuki IWAMOTO(Univ. of Tokyo), Daisuke TAHARA(Fukui Pref. Univ.), Takehito YOSHIDA(Res. Inst. Humanity and Nature, Univ. of Tokyo)

圃場整備に伴って水田との連続性が途絶えコンクリートで覆われた整備済み水路は、水生生物の生息場所として不適であると言われる。しかし、未整備の素掘りの土水路と比べれば確かに劣るものの、条件によっては、水生生物の生息場所として機能しうる。圃場整備が行われた水田景観は、農作業効率の面から今後も広く存在し拡大していくと予想される。そのため、整備済み水路の水生生物群集に関する理解は、広範な地域の水田景観における生物多様性保全につながると期待される。したがって、本研究の目的は、整備済み水路の魚類群集と水生昆虫群集に影響する要因を明らかにすることである。
本研究では、福井県北川流域の5つの調査サイトにおいて全24調査区を設定し、春、夏、秋の各季節で魚類および水生昆虫を採捕した。各季節の魚類群集および水生昆虫群集に対して、物理化学的変数からなる水路の環境要因と、地上距離に基づく空間要因、河川との接続性に関連した空間要因のそれぞれが与える影響をRDAによって評価した。
全ての季節で、魚類群集のばらつきは、環境要因および河川との接続性に関連した空間要因によって説明された。特に、水深と洪水時の想定浸水深は、全ての季節において有意な変数に選ばれた。水位低下に対する耐性の相違と、農繁期や洪水時の増水に伴う河川からの移入プロセスが魚類群集に影響したと考えられる。
一方、水生昆虫群集のばらつきは、夏と秋では地上距離に基づく空間要因によって説明され、春ではどの要因の効果も有意でなかった。夏と秋では、半径500m程度の空間自己相関が生じており、水田における先行研究で指摘されている景観要因や農法の影響が示唆された。
水生昆虫は飛翔して移動できる一方、魚類は連続する水系内に移動が限られるため、魚類群集には水域間の接続性および局所的な環境要因が顕著に影響すると結論付けられた。


日本生態学会