| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-056 (Poster presentation)
草食獣の採食行動は摂取エネルギーの最大化や栄養バランス、毒素の忌避などに基づいて行われ、植物の嗜好性の程度は上記の要素により決まる。また、シカの採食行動は近隣の別種の植物により変化する場合があり、この現象を連合効果と呼ぶ(採食量が増加する場合を連合感受性、採食量が減少する場合を連合抵抗性)。しかし、採食行動と連合効果の知見を統合した研究例は少ない。また、連合効果に関する多くの研究は植物を嗜好性・不嗜好性に二分して扱っているが、実際は嗜好性は連続的に異なる。そこで、本研究は植物の嗜好性の程度の違いがニホンジカ(シカ)に対する連合効果に与える影響を検証し、採食行動に着目して考察を行った。
まず、対象植物の嗜好性を調べるために、各植物種をシカに採食させ被食率(葉・茎)を測定した。その結果、嗜好性が高い種から順にアカソ、ミヤマイラクサ(イラクサ)、ススキと判断した。次に、プランターの中心にアカソを植えて、その周囲にアカソを植えたアカソ区、イラクサを植えたイラクサ区、ススキを植えたススキ区、何も植えない対照区の4種のパッチ(餌場)を用意して、中心のアカソの被食率を比較した。また、シカの採食行動をカメラトラップにより撮影した。その結果、ススキ区では被食されなかった(連合抵抗性)のに対して、イラクサ区ではアカソ区よりも被食率が高くなる傾向にあった。さらに、採食行動を分析したところ、ススキ区には訪問自体が見られず、イラクサ区はアカソ区より採食時間が長いことが分かった。
以上のことから、嗜好性の低いパッチにはシカは訪問を避けるため連合抵抗性が見られ、逆に嗜好性の中程度ではパッチでの採食時間が長くなるため連合感受性が見られる可能性がある。
このメカニズムの解明のため、今後は植物の嗜好性を決めるエネルギーや栄養素、毒素まで分析を行い、連合効果との関連を様々な植物種を用いて検証したい。