| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-058 (Poster presentation)
様々な花形質の中で、色や匂いは送粉者に対する「広告」として、形態(花筒長や相称性など)は主に送粉者の物理的な「選抜」として、花蜜や花粉は送粉者に対する「報酬」として機能している。多様性に富む花が進化してきた背景を理解するためには、異なる機能を持つこれらの形質が、互いにどのように相関しながら進化してきたを把握することが必要である。しかし、異なる花形質間の、種間レベルの相関関係を示した研究は非常に少ない。そこで本研究では、「広告」「選抜」「報酬」に対応する花形質として、「花色」「花筒長」「花蜜量」に着目し、これら3つの花形質間の、種間レベルの相関関係を調査した。
調査は、富山県立山の高山帯に生育する動物媒の高山植物88種を対象に行った。花色は分光器で花の広告部位(主に花被片)の300-700nm域の反射スペクトルを測定し、膜翅目の色覚モデル(bee color hexagon: Chittka1992)を用いて評価した。花筒長はデジタルノギスで計測した。花蜜量はキャピラリーチューブで採取・計測し、植物種ごとに平均値、中央値、最大値を算出した。十分な花蜜量が得られた場合は、糖度計で花蜜の糖度も計測した。
①花筒が長い花を持つ植物種は、花色がbee color hexagonにおけるnon-greenish(概ね、人の色覚における青や紫に対応)である割合が高かった。②花筒が長い花を持つ植物種ほど、花当たりの花蜜量が多い傾向があった。③花色がnon-bee-greenish(青や紫)の花を持つ植物種のほうが、bee-greenish(白や黄)の花を持つ植物種よりも、花当たりの花蜜量が多い傾向があった。総じて、花色、花筒長、花蜜量の間には、種間レベルの明確な相関関係が認められた。
本研究の結果は、異なる機能を持つ複数の花形質が、送粉者との相互作用を通じて、協調しながら相関進化してきたことを示すものであった。多様な形質の花が進化してきた背景を理解するうえで、重要な知見が加わったと考えている。