| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-059 (Poster presentation)
送粉者と植物の関係は生態系における最も重要な生物間相互作用の1つと言われる。しかし、送粉者と植物間の相互作用が、送粉者群集や植物群集の性質にどう影響しているのかに関する研究はほとんど行われていない。本研究では「送粉者群集の分類群組成」と「植物群集の花形質組成」の季節推移に着目し、送粉者群集と植物群集の性質が、どのくらい互いの影響を受けながら構築されているのか、考察を行った。
調査は、富山県立山の高山帯(主に2012、2013年)、長野県菅平の半自然草原(主に2017、2018年)、および富山大学周辺の農地周辺(2020年)で行った。これらの地域で、植物の開花季節を通じて、開花植物種と送粉者種を網羅的に記録した。また、観察された開花植物種を対象に、花色(300-700nm領域の反射スペクトル)と花形態(花筒長など)を網羅的に計測した。花色は、ハチ目の色覚モデル(Chittka1992)に基づき、bee-greenish(ヒトの色覚における白や黄色)とnon-bee-greenish(青や紫色)に分類した。花形態は、花筒長に基づき4つのカテゴリー(無花筒・短花筒・中花筒・長花筒)に、花の相称性に基づき2つのカテゴリー(放射相称花・左右相称花)に分類した。
その結果、季節の推移とともに、ハナバチとチョウの割合が、立山では増加し、菅平では明確には変化せず、富山大学周辺では減少していた。そして、この傾向に概ね対応するように、季節の推移とともに、non-bee-greenishの花色をもつ植物種の割合が、立山では増加し、菅平ではあまり変化せず、富山大学周辺では減少する傾向がみられた。花形態の組成に関しては、例えば、立山では季節とともに長花筒の植物種の割合が増加し、富山大学周辺では季節とともに左右相称花の割合が減少するなどの傾向がみられた。ただし、送粉者組成の推移との対応関係は、3群集間で一貫してはいなかった。
総じて今回得られた結果は、送粉者群集と植物群集の性質が、互いの性質の影響を受けながら構築されていることを示唆するものであった。