| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-061  (Poster presentation)

直立するオスと下垂するメス―雌雄異株植物オニドコロにおける花形質と訪花数の雌雄差
Upright male and pendente female -how floral traits and floral visitors differ in Dioscorea

*工藤葵(京都大学), 杉原優(京都大学, 岩手生工研), 太田敦士(京都大学), 寺内良平(京都大学, 岩手生工研)
*Aoi KUDOH(Kyoto Univ.), Yu SUGIHARA(Kyoto Univ., IBRC), Atsushi OHTA(Kyoto Univ.), Ryohei TERAUCHI(Kyoto Univ., IBRC)

雌雄異株植物は一般に雌雄で異なる花形質を持つ。この花形質の雌雄差を生みだす要因を明らかにすることは雌雄異株植物の進化を理解するうえで重要である。

ヤマノイモ科ヤマノイモ属の一種オニドコロを対象に、雌雄間で花序当たりの花数と花序角度を比較したところ、花数は雌よりも雄のほうが多く、角度は雄では斜上傾向、雌では下垂傾向があることが分かった。本研究では、送粉による結実制限の有無と種子成熟の度合いを調べることにより、この花形質の雌雄差を生みだす要因との関係を考察することを目的とした。
まず、野外のオニドコロ集団において、袋掛けと人工授粉により結実を制限する要因を調査した。さらに、雌雄で昆虫の誘因が異なるかを、雄花序と雌花序の近くに粘着トラップを設置し検証を行った。その結果、自然下では結実率が低いが人工授粉により結実率が上がり、花粉制限があることが分かった。主な誘因昆虫であるハエ目の捕獲数について、平均は雄花序と雌花序で差はないが、ばらつきは雄花序で大きいことが明らかになった。
ついで、野外のオニドコロから蒴果を採集し、蒴果の結実と種子の成熟度合を調査した。その結果、オニドコロの蒴果では、非結実蒴果と結実蒴果の2段階、結実蒴果内の種子では未発達、未成熟、成熟の3段階に分かれており、成熟種子数は限られることがわかった。また、近縁種であるヤマノイモの雌花序直立変異株では非結実蒴果が多く見られた。

以上の結果から、雌雄異株植物オニドコロの結実は、雄株から雌株に到達する花粉に制限されており、送粉者の誘因が重要であると考えられた。その送粉者の誘因において、雌間競争よりも雄間競争のほうが激しいため、雄で花数がより多くなったと考えられる。雌の下垂花序の進化が受粉成功に貢献しているかどうかについては、今後の実験的検証が必要である。


日本生態学会