| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-062 (Poster presentation)
種間交雑は、適応度の低下をもたらすことが多いため、近縁植物種間での交雑を防ぐ仕組みを有することは、植物の繁殖において重要である(e.g. Arnold 1997)。日本に広く分布する雌雄異株植物ヒサカキ Eurya japonica とハマヒサカキ Eurya emerginata は、本州では開花時期が異なるものの、沖縄島では開花時期は重複している。そのため、沖縄島のヒサカキ属2種は異なる花形質を有することで、異なる分類群の訪花者を獲得し、交雑を防いでいる可能性があると考えられる。本研究では、沖縄本島で、両種の訪花者と花形質に違いを明らかにすることを目的とした。調査は沖縄県国頭村で2017年1月から3月におこなった。訪花昆虫については、日中及び夜間(計165時間)に採集した。また、ヒサカキとハマヒサカキが交雑した際に果実が生産されるかを確認するために、人工交配実験をおこなった。花形質については、花の直径、花蜜の糖度、糖量を計測した。その結果、ヒサカキでは4目181個体、ハマヒサカキでは5目376個体の訪花者が採集された。送粉者として機能する可能性が低いアリ科(Beattie et al. 1984)を除くと、両種・雌雄とも主要な訪花者はハエ目(ヒサカキ:80%、ハマヒサカキ:85%)であった。また、異種間での交配による結果率は、同種間での人工受粉による結果率と有意な差は無かった。糖度は両種の雌雄とも中央値で60%以上の値であった。花の直径・糖量に種間差は見られなかった。以上のことから、沖縄本島のヒサカキとハマヒサカキは種間で異なる花形質を有しておらず、送粉者のパーティショニングが生じていないと考えられた。加えて、交配により果実が生産されることから、沖縄本島において、ヒサカキ属2種の生殖隔離は不完全であることが示された。