| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-064 (Poster presentation)
動物の被食による種子散布に関する研究は鳥類を散布者とするものが多く、1980年代後半になり哺乳類の散布者としての役割が注目され始めたが、哺乳類のみに依存した種子散布戦略をとる樹種に関する研究は少ない。被食散布の影響として、①被食による果肉除去や消化管通過によって発芽が上昇すること、②母樹の樹冠下では実生の定着が阻害されるため母樹から離れた場所に運ばれることが考えられる。そこで、本研究では、大型の果実形態より哺乳類散布樹種と考えられるリンゴ属のオオウラジロノキを対象に、①被食と果肉の存在が種子の発芽に与える影響と、②成木との距離が実生の定着に与える影響を明らかにすることを目的とした。
東北日本海側に位置する山形県鶴岡市の高館山自然休養林に生育するオオウラジロノキの果実を使用して、2種類の発芽実験を行った。①山形大学農学部の実験苗畑で被食された種子、果実から取り出した種子、果実の3条件で発芽率を比較した。②高館山においてオオウラジロノキの樹冠下と他樹種の樹冠下で発芽率と実生の生存率を比較した。
哺乳類に被食された種子の発芽率は、人為的に果肉を除去した種子よりも発芽率が有意に高かったが、哺乳類の被食により破壊された種子も加えると発芽率に有意な差は認められなかった。また、果実の状態ではまったく発芽しなかったことと果実内の種子は播種翌年の秋までに腐敗して埋土種子にはならなかったことから、種子発芽には被食による果肉除去が必要であることが明らかとなった。高館山において果肉を除去した種子はいずれも高い発芽率を示したが、オオウラジロノキの樹冠下では他樹種の樹冠下よりも実生の生存期間が有意に短かったことから、オオウラジロノキは母樹から離れた場所に種子を散布することで発芽後の実生の生存率を高めている可能性が示唆された。