| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-065  (Poster presentation)

花たちの水際作戦:動物媒花の形態が異種花粉の受けとりやすさにおよぼす影響
Floral border control : effects of morphology on heterospecific pollen receipt in animal-pollinated flowers

*山口真利枝, 大橋一晴(筑波大学)
*Marie YAMAGUCHI, Kazuharu OHASHI(Tsukuba Univ.)

自然界の植物は、他種と共に開花するのが一般的である。このような状況では、送粉者の非選択的な訪花により、異なる種間で送受粉が起こり、植物の繁殖に負の影響をもたらす恐れがある。
異種間での花粉移動を防ぐ花の戦略として、他種と異なる花色や香りをもつことで、特定の送粉者への特殊化を促したり、あるいは送粉者の個体レベルの定花性を強化したりする「行動的隔離」が注目されることが多い。しかし、近年の野外データを用いた研究で、他種との往来を頻繁におこなう送粉者が多く訪れる植物種ほど、実際には異種花粉を受けとりにくい、という興味深い傾向が示された(Fuang & Huang 2016)。この発見は、行動的隔離がうまくゆかない環境では、何らかの花形質により、異種花粉が訪花者の体表から柱頭に付着するのを防ぐ花の戦略が進化してきた可能性を示唆する。
そこで本研究では、動物媒花の形態が異種花粉の受け取りやすさにおよぼす影響を明らかにするため、文献の野外データを用いたメタ解析を行った。柱頭に付着した異種花粉の割合(以後、異種花粉率)を調べた論文14本から、対象植物90種の形質 (柱頭の突出度、対称性、向き、蜜源までの深さ)を抽出した。これらに「訪花者のグループ多様度」、「出典論文(生息場所や群集の違いなどを反映)」を加えた6つを予測子、異種花粉率を応答変数として、機械学習アルゴリズムRandom Forestsによる非線形回帰を行った。
モデル選択により、柱頭の突出度、花の向き、出典論文の3つの予測子が選ばれた。これは、柱頭が突出していない花ほど、そして下向きに咲く花ほど、異種花粉率が低いことに起因する。
以上の結果は、柱頭の高さや花の向きといった形質が、これまで注目されてこなかった異種花粉の「上陸」を妨げる機能を併せ持つ可能性を示唆する。今後は、送粉者の訪花行動を詳しく観察し、これらの形態が異種花粉の付着を妨げる機序について明らかにしていきたい。


日本生態学会