| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-066 (Poster presentation)
ブナ(Fagus crenata Blume)の豊凶が進化した要因として捕食者飽食仮説が有力であるが,森林の劣化や分断化によってブナ個体群が縮小した場合に飽食効果にどのような影響があるかは分かっていない.広島県東広島市鷹ノ巣山の山頂付近には,周囲を人工林に囲まれた約4haのブナ林が残る.このブナ個体群における種子の虫害率は,豊作の2018年に83.1%,凶作の2019年に100%と,極めて高いことが報告されている.本研究は,(1)鷹ノ巣山のブナの種子生産数と昆虫の虫害率の季節変化を明らかにし,(2)大豊作年と予想される2020年に飽食効果が働いているか検証した.
鷹ノ巣山のブナ6個体を対象に,シードトラップ法を用いて種子生産数を推定した.2020年6月から12月にかけて約2週間に1度トラップの内容物を回収した.種子数の総計を2020年の種子生産数と定義し,1 ㎡あたりの種子数として示した.また,種子を切開し,虫害,しいな,充実の3つに分類しそれぞれの割合も求めた.種子数や食害率を過去や他地域のデータと比較した.
2020年の鷹ノ巣山のブナの種子生産数は,298.4(個)/㎡で,2018年を優にしのぐ大豊作であった.種子落下の季節性パターンは,6月頃と10月頃に落下数のピークが存在した.このうち,6月頃のピークに落下した種子はほとんど虫害を受けていた.調査期間全体の虫害率は76.6%で,豊作年の他の森林と比較して虫害率が極めて高かった.2020年の虫害率を2018年,2019年と比べると(比較のため9~11月の虫害率),豊作であった2018年は83.1%,凶作であった2019年は100%であったのに対して,大豊作の2020年は64.0%であり,捕食者飽食仮説が支持された.しかし,前述したように2020年も虫害率は極めて高く,縮小した個体群では大豊作年でも十分に飽食されない可能性が示唆された.また,しいな率も高く、充実種子率は極めて低かった.種子食害の甚大さと他家受粉の制約は分断化されたブナ個体群の更新を妨げている可能性がある.