| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-070 (Poster presentation)
虫こぶ形成昆虫は、宿主植物の芽や葉などに、食料とすみかを兼ねた虫こぶを形成する。虫こぶの形態は、昆虫の種によって非常に多様である。昆虫は、植物の発生過程の遺伝子発現を変化させて虫こぶを形成するため、虫こぶの遺伝子発現を調べることで、多様な虫こぶが形成されるプロセスを遺伝子レベルで明らかにできる。本研究では、マンサクの腋芽に虫こぶを形成するHamamelistes属のマンサクイボフシアブラムシ、マンサクサンゴフシアブラムシ、マンサクイガフシアブラムシ(以後、イボ、サンゴ、イガと省略)を対象とする。この3種の各進化段階には、マンサクの地理分化や齧歯類による虫こぶの捕食圧などの要因が効いていたと考えられる。本研究では、Hamamelistes属アブラムシ3種の虫こぶの各進化段階における、虫こぶ組織とアブラムシの遺伝子発現パターンの進化を明らかにし、それらの進化にどのような要因が効いていたのかを推定する。
まず、mtDNAのCOI-COII領域を用いて、3種のアブラムシの系統地理解析を行った。そして、MIG-seq法を用いてSNPデータを取得し、マンサクの系統地理解析を行った。その結果、3種のアブラムシの分布や種内の遺伝分化とマンサクの地理分化の間には対応がみられた。つまり、マンサクの地理分化が3種のアブラムシの種分化や種内分化を促進した可能性がある。また、食害調査の結果、虫こぶの内部構造が単純なイガと比べて、内部構造が複雑なイボとサンゴの方が内部のアブラムシが捕食されにくいことが明らかにされた。このことから、捕食圧はHamamelistes属における虫こぶ形態の進化をもたらす要因となったと考えられる。そして、RNA-seqを用いた虫こぶ植物組織の遺伝子発現解析を行った結果、3種の種間や種内の地域間で遺伝子発現パターンに差がみられた。これらのことから、マンサクの地理分化や捕食圧が主要因となって、虫こぶ形成に関わる遺伝子発現パターンの進化がHamamelistes属のアブラムシにおいてもたらされたと考えられる。