| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-073  (Poster presentation)

農薬の複合施用が土壌生物を介して作物の生育におよぼす影響
Mixture effect of pesticides on crop growth via ecological functions of soil organisms

*横山尚基(近畿大学大学院), 橋本洸哉(国立環境研究所), 早坂大亮(近畿大学大学院)
*Naoki YOKOYAMA(Grad Sch Agric, KINDAI Univ), Koya HASHIMOTO(Natl Inst Environm Studies), Daisuke HAYASAKA(Grad Sch Agric, KINDAI Univ)

持続可能な農業を目指すうえで、土壌生物のはたらきを利用して作物の生産性を向上させることは重要である。しかし、農地では病害虫の制御を目的として農薬が施用され、副次的に非標的生物や土壌生態系機能にも悪影響をおよぼす。農薬の生態影響はこれまで、単一の薬剤(単剤)による影響に主眼が置かれてきたが、実際の農業現場では複数系統の農薬が複合的に施用される。すなわち、農薬の複合施用がもたらす生態影響は十分に評価されているとは言い難い。そこで本研究では、土壌生態系機能として窒素(N)供給に焦点をあて、マメ科作物であるダイズをモデルに、殺虫剤と殺菌剤の複合施用がN供給を担う土壌生物(根粒菌、節足動物)と作物への栄養供給の機能にもたらす作用を評価した。その際、ダイズの成長量およびN含有率を指標とした。ダイズをポットで栽培し、殺虫剤(クロルピリホス)と殺菌剤(ベノミル)を組み合わせた4処理(2×2要因)を設定した。ダイズの葉中のN含有率、地上部・地下部の重量、土壌節足動物の個体数、およびダイズに着生した根粒の数・重量を測定した。試験の結果、ダイズの重量は農薬処理の影響をほとんど受けなかったが、葉のN含有率は各農薬処理による有意な影響を受け、殺菌剤のみの処理で低く、殺虫剤のみの処理で高くなった。両剤の複合処理では、各単剤処理の影響を足し合わせたような傾向を示した。根粒菌・節足動物はともに農薬処理による有意な影響を受けなかった。以上のことから、本研究で使用した2剤は、それぞれ作物体内のN含有率に影響をおよぼし、複合施用により、各単剤の影響から予測可能な相加的な影響が表れることが明らかになった。ただ、本研究で対象とした根粒菌や節足動物に対しては影響をおよぼさなかったことから、農薬が栄養供給機能におよぼす影響を詳細に解明するためには、他の土壌生物(菌根菌等)にも焦点をあてる必要があるだろう。


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