| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-077  (Poster presentation)

訪花頻度のダイナミズム:ソバ花序の多地点・長時間撮影から見えてきたパターン
Dynamism of visitation frequency: video recording of buckwheat flowers reveals spatiotemporal patterns of pollination service

*夏目佳枝(東京大学大学院), 永野裕大(筑波大学大学院), 宮下直(東京大学大学院)
*Kae NATSUME(University of Tokyo), Yuta NAGANO(University of Tsukuba), Tadashi MIYASHITA(University of Tokyo)

農作物のうち75%の種類が果実、種子生産において昆虫による送粉サービスの恩恵を受けており、作物の安定した生産のためには訪花昆虫の送粉効率の定量化が不可欠である。ソバは自家不和合性で送粉を昆虫に依存するが、多様な訪花昆虫種それぞれが結実へどれほど貢献しているかは未知である。送粉効率は1回あたりの効率と訪花頻度で表され、訪花頻度は気象や開花数の影響を受けることが示唆されている。本研究はソバ花序の多地点・長時間撮影を通して、訪花昆虫1回あたりの結実貢献と、訪花頻度のパターンを明らかにすることを目的とした。
2020年9月に長野県飯島町のソバ畑において、ソバ1花序あたりの訪花昆虫を丸1日ビデオカメラで撮影することで訪花頻度を記録した。その際開花していた花に印をつけ、花単位の結実率を記録した。
GLMMを用いて、1回訪花あたりの結実率への効果を推定したところ、アリの2種(クロヤマアリ、ムネアカオオアリ)で有意に正の効果があり、ハチ類でも弱い正の効果が見られた。アリの2種(クロオオアリ、トビイロケアリ)、ハエ類、ヒラタアブ、ツマグロキンバエで有意な効果が見られなかった。送粉昆虫として重視されてこなかったアリが結実率へ正の貢献をしていることは大きな発見である。これら結果と1日あたりの平均訪花頻度を積算して個体群レベルでの結実貢献を算出したところ、ハチ類が最も高く、クロヤマアリが次に高い結果となった。また、チョウ、アリ、ハチ、ハナアブ、ハエ、コウチュウのうち、チョウとアリの1花序あたりの訪花頻度は、それぞれの圃場における1株あたり開花数に伴い減少した。これは花序当たりの訪花頻度が、大量開花による薄めの効果を受けていることを示している。気象による訪花頻度への効果は昆虫によって異なったが、特にアリは気温と風速において他の分類群とは異なる応答を示しており、気象に対するレジリエンスに寄与していることが示唆される。


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