| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-078  (Poster presentation)

光合成ウミウシと寄生性カイアシ類の相互作用:盗んだ葉緑体は寄生者を利するか?
Interaction between photosynthetic sea slugs and parasitic copepods: Do the stolen chloroplasts benefit parasites?

*三藤清香(奈良女子大学), 宮島利宏(東大大気海洋研), 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Sayaka MITOH(Nara Women's University), Toshihiro MIYAJIMA(AORI, the Univ. of Tokyo), Yoichi YUSA(Nara Women's University)

嚢舌類のウミウシは、食藻の葉緑体を体細胞内に取り込み、光合成に利用する(盗葉緑体現象)。本来捕食者である生物が、同時に生産者にもなるため、この現象を示す生物と他種の相互関係の理解は、生態系のエネルギー循環を理解する上で重要である。しかし盗葉緑体生物と、捕食者や寄生者といった上位の栄養段階の生物との相互関係については研究例がない。嚢舌類は藻類の代謝産物で化学防御を行うため捕食者がほとんど知られていない。そこで本研究では、嚢舌類クロミドリガイElysia atroviridisとその内部共生者(寄生者とされているが寄生の証拠は得られていない)である未記載種のカイアシ類Arthurius sp.を用いて、上位の栄養段階の生物に嚢舌類の光合成が与える影響と、寄生者が嚢舌類に与える影響を調査した。カイアシ類の有無と光強度(ウミウシが十分に光合成を行える強光と、ほとんど行えない弱光)を組み合わせた4条件下でクロミドリガイをほぼ繁殖期全体にわたる10週間飼育し、クロミドリガイおよびカイアシ類の生存・成長・産卵の変化を計測した。その結果、強光条件ではカイアシ類の成長と産卵量が増加した。これがウミウシの光合成によるものなのかを確かめるため、強光および弱光下で飼育したウミウシ・カイアシ類・食藻の炭素同位体比の解析を行った。その結果、カイアシ類の炭素同位体比は強光下のウミウシのものに近く、光合成産物を利用していることが示唆された。他方で、カイアシ類の存在によってウミウシの生存率および成長が増加したが、産卵量は大きく減少した。このことから、カイアシ類が実際にクロミドリガイの繁殖成功に負の影響を与えている寄生者であることが初めて示された。以上より、盗葉緑体生物の光合成がその寄生者に利益をもたらすことが初めて示された。


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