| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-080 (Poster presentation)
ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)(以下クマ)の西中国地域個体は,環境省レッドリスト2020において絶滅の恐れがある地域個体群(LP)と記載されているが,人との軋轢が深刻化している.そのため食性などの詳しい生態を知り,科学的根拠に基づいた保護と管理の両方の対策を行う必要がある.
クマは,秋にブナ科堅果に依存することが知られている.ブナ科堅果は,被食防止物質であるタンニンを多く含み,タンニンを摂取すると消化管内タンパク質と結合し、消化管の損傷などの有害な影響をもたらす.そのため,いくつかの堅果類消費者はタンニンに対し強い結合力をもつ唾液タンパク質(TBSPs)の分泌能を有し、耳下腺を肥大させてその分泌量を増加させることで対抗することが知られている.山口県で捕獲されたクマにおいても秋に耳下腺が肥大し,TBSPs濃度も増加していた.また,6月にも耳下腺が肥大する傾向が確認された.6月にはサクラ属やキイチゴ属などの果実を一度に大量に食べる.タンニンは加水分解型(HT)と縮合型(CT)に分類され,ブナ科堅果はHTが多く,サクラ属にはCTが多く含まれるとの情報がある.このことから,クマはCTにも対応できる可能性がある.そこでブタノール塩酸法によって,クマが利用しそうな植物の縮合型タンニン含量を測定した.また,TBSPsの季節による構成の違いを電気泳動によって分析した.
CTを測定した結果,クマが6月に利用すると考えられるサクラ属,キイチゴ属,クワ属の果実中に含まれており,クマは,クマ棚を作りながら一度に大量に摂取するためタンニンの摂取量が多くなり,耳下腺肥大,唾液中のTBSPs濃度の増加をもたらしている可能性がある.
TBSPsを電気泳動により分析した結果,春~夏は秋に比べて泳動距離が長いバンドが現れた.摂取するタンニンのタイプによって,タンパク質の構造を変化させている可能性が示唆された.