| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-082 (Poster presentation)
訪花性昆虫はしばしば、特定の分類群に多く訪花することが知られ、例えば、アゲハチョウの仲間は赤や橙の花をよく訪れると言われている。しかし、それらの知見は断片的な観察例や限られた植物種での比較に止まっており、実際に野外でアゲハチョウが訪れる植物はよくわかっていない。そこでナミアゲハを対象に、訪花の野外観察と体表花粉の形態・DNA分析を行い、野外で訪れる花とその季節変化・性差・個体差を明らかにすることを試みた。訪花観察と採集は神奈川県三浦半島のみかん園とその周辺の里山で2019年4月から6月にかけて行った(7〜18時, 30分毎に約560mをルートセンサス, 計13日)。その結果ナミアゲハは計79回観察され、そのうち3個体の訪花(シチヘンゲ5回, ミカン1回)を記録した。同時期に観察地で採集した36個体(11日分)すべてに花粉が付着しており、推定した総花粉数は1410 ± 290.3個/個体だった。花粉の形態から76の分類群を同定し、最も多くの個体に付着していた花粉はネズミモチ(15個体)だった。一方、DNAのITS1・ ITS2領域の相同性から142の分類群(風媒花を除く)を同定し、20個体からサンゴジュ、18個体からツツジ属 sp.、ダイコンに由来する配列を検出した。また、個体毎の花粉組成を分析したところ、春から初夏にかけて草本分類群に対する木本分類群の割合が約25%から約75%に増え、季節毎の指標種をIndval法で求めると、最も指標指数が高い花はそれぞれナガミヒナゲシ、マテバジイ属 sp. だった。さらに、花粉組成の性差について個体差・時間変動を考慮した階層モデルで検証したところ、雌雄の花粉組成に差があることが示唆された。以上の結果はナミアゲハは草本・木本を含めた多様な花に訪れ、その訪花傾向は季節や性別によって異なることを示している。