| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-083 (Poster presentation)
雄の繁殖縄張り制は動物分類群に広く認められる現象であり,精巣で合成されるアンドロゲン(雄性ホルモン)依存的な形質であることが多くの種で知られている.その一方で,アンドロゲン依存的な繁殖縄張り行動は様々な階層で適応度上のコストとなるため,その発現レベルが繁殖システムの異なる近縁種間や種内集団間で適応的に分化している可能性がある.自然集団におけるその実態や背後にある進化遺伝基盤に関する知見は乏しいが,種内や近縁分類群間における繁殖縄張り行動の多様性創出においては,広義の内分泌シグナル(ホルモン合成能,感受性,応答性)に関わる遺伝的変異が進化モデルとして強く想定できる.
現代進化学のモデル動物として広く用いられているイトヨはティンバーゲン以来の行動学の伝統があり,雄が繁殖縄張りを形成し,営巣・求愛するという典型的な特徴を有する.イトヨ雄における攻撃的縄張り・営巣行動発現のアンドロゲン支配に加え,本種には様々なハビタット特性(雄間競争の程度や生活史に影響)をもつ環境に進出した生態型集団が存在することから,当該研究のモデル系としても極めて有用である.本研究では,いくつかの日本産淡水イトヨ集団を用いて雄の攻撃的縄張り行動の発現レベルと血中アンドロゲンレベルを調査したところ,両レベルに相関的な集団間変異が認められ,発現の強弱は各集団の系統地理関係から反復進化的に出現していることを見出した.さらに,CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集により,アンドロゲンレベルを遺伝的に操作した個体を作出することで,このレベルが攻撃的縄張り発現の強弱を決定していることを強く示唆した.我々は既に一部の地理的系統の生態型間でアンドロゲン合成能変異の遺伝基盤の検出に成功しているが,今回新たに行動特性を見出した集団は,繁殖縄張り行動発現の平行進化現象に同様の進化機構が存在するのかという問いの追究を可能とする.