| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-087  (Poster presentation)

北海道大学天塩研究林におけるヒグマの秋季の食性の変化とその要因について
The fall diet pattern of brown bears (Ursus arctos), in norhern Hokkaido.

*金杉尚紀, 井上伸哉, 大竹賢登(北大クマ研)
*Naoki KANASUGI, Shinya INOUE, Kento OOTAKE(H.U. Brown bear research group)

近年、北海道ではヒグマ(Ursus arctos)による農作物の被害が問題になっている。秋における主要なエサであるミズナラ(Quercus crispula Blume)が凶作の年には、ヒグマによる農作物の利用は9月から11月まで長期間みられるが、豊作年には10月に入るとミズナラの利用が増加し、農作物の利用は減少することが知られている。しかし、ヒグマの農作物利用の変化はミズナラの豊凶だけでは説明しきれず、他の食物の豊凶との関係も考慮する必要があると考えられる。

そこで本研究では、ミズナラに加えて漿果類の豊凶と、ヒグマが食害する代表的な農作物であるデントコーンの作付け面積が、ヒグマによる農作物利用に与える影響を明らかにした。2016年から2019年の9月中旬から11月上旬にかけて、北海道大学天塩研究林内で採取したヒグマの糞をポイントフレーム法によって分析し、ヒグマの食性を明らかにした。同期間に北大天塩研究林内でミズナラ、サルナシ (Actinidia arguta) 、ヤマブドウ (Vitis coignetiae) 、ナナカマド (Sorbus commixta)の結実量調査を行い、結実量の年次変動を明らかにした。また、2018年と2019年に、聞き取り調査によって北大天塩研究林周辺のデントコーン(Zea.mays.L.var.indentata)の刈り取り面積を明らかにした。

糞分析の結果から、ヒグマによる農作物と漿果類の利用は、年変動があることが分かった。そして、ミズナラの凶作年には、10月に入ると農作物が利用されているもののその割合は少し低下し、漿果類の利用が増加するようなパターンがみられた。このパターンはミズナラが凶作でサルナシの並作の年に見られると考えられた。また、ミズナラの豊作年ではデントコーンの刈り取りが始まるとヒグマの農作物利用は急激に減少するが、凶作年では刈り取りが進んでも農作物利用はしばらく継続することが分かった。


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