| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-089  (Poster presentation)

なぜこんなに偏るのか?:飼育下アカゲザルにおける鞭虫の偏向寄生 【B】
What makes the variation of whipworm's parasite burden in rhesus macaques reared in an open enclosure? 【B】

*徳重江美, 兼子明久, 前田典彦, 大石高生, 鈴木樹理, 宮部貴子, 森本真弓, 橋本直子, 山中淳史, 石上暁代, 愛洲星太郎, 夏目尊好, 井戸みゆき, Kenneth KUEK, Andrew MACINTOSH, 岡本宗裕(京大・霊長研)
*Emi TOKUSHIGE, Akihisa KANEKO, Norihiko MAEDA, Takao OISHI, Juri SUZUKI, Takako MIYABE, Mayumi MORIMOTO, Naoko HASHIMOTO, Atsushi YAMANAKA, Akiyo ISHIGAMI, Seitaro AISU, Takayoshi NATSUME, Miyuki IDO, Kenneth KUEK, Andrew MACINTOSH, Munehiro OKAMOTO(Kyoto Univ. PRI)

 2018年3月、駆虫薬イベルメクチンの定期投与を行っていた霊長類研究所放飼場内のアカゲザル群から、鞭虫に重度に寄生され極度に衰弱した個体が見つかった。これを受け、同アカゲザル群全頭で糞便内の鞭虫のEPG(1gあたりの虫卵数、ウィスコンシン変法で算定)を検査した結果、数万ものEPGを記録した個体もいた一方で、約4割の個体ではEPGがゼロという、非常に偏った分布となっていた。
 野生下の宿主個体群においては、寄生数の分布が、少数の宿主個体に多数の寄生が集中する負の二項分布のような偏った形になることは珍しくない。しかし行動範囲が制限され、かつその土壌全体が鞭虫卵で汚染されていると推測される高密度な放飼場内では、宿主個体間に感染機会に大きな差があったとは考えにくい。このため、同アカゲザル群での虫卵数の偏った分布の背景には、例えば宿主側の行動や遺伝的な背景の差異といった、単純な土壌からの感染機会の多寡以外の「感染しやすさ」に関わる未解明の要因が働いている可能性がある。解明に向け、まずEPGに関する基礎データの収集、鞭虫薬の効果の確認等を目的として実験を行った。
 同アカゲザル群より鞭虫卵を排出していた15頭を選抜、個別ケージに入れ再感染を防いだ後、コントロール群、イベルメクチン投与群(I群)、薬剤4種投与群(4種群)の3群に分け、EPGの経過観察の後、剖検で成虫の寄生数を確認した。
 結果、I群と4種群では薬剤投与後の糞便内に死亡した成虫の脱落が見られたが、I群では2個体でその後も寄生が続いていたことで、過去のイベルメクチン投与では駆虫が不十分だった可能性が極めて高いことが確認された。また、経過観察により同一宿主個体でもEPGが大きく変動する場合があること、成虫の寄生数とEPGの間には相関関係があること、しかしEPGからの雌のみの成虫数の推測は困難であることなども確認され、今後の霊長類における鞭虫の詳細な動態研究に繋がる指標が得られた。


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