| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-091 (Poster presentation)
ある生活史段階において、繁殖や採餌のための長距離移動(回遊)をおこなう生物がいる。回遊中の死亡圧はとても高く、サイズ選択的に作用することから、回遊する生物にとっては回遊開始までに危険回避に十分な大きさに達しておくことが、回遊成功の鍵となる。過去の研究では、回遊型の種や個体が、非回遊型の種や個体に比べ「平均」して成長率が高いことが確かめられてきた。これは、回遊中のサイズ選択的な死亡圧に対する成長戦術として捉えることができるが、より複雑な成長のデザインが存在するかもしれない。例えば、過度な成長は生理学的・生態学的なコストを被ることや、個体によってそもそものサイズが異なることを踏まえると、回遊前の成長の度合いには個体間変異があり「小さな個体ほどよく成長してから回遊を始める」サイズ依存の成長パターンを期待できる。本研究は、サクラマスを対象に、索餌回遊前の成長のサイズ依存性を調べることで、この予測を検証した。
サクラマス個体群には、残留型と回遊型が存在する。残留型は一生を川で過ごす一方、回遊型は、最低1年半間を生まれた川で過ごした後に、春に川を降り、海で索餌回遊を行う。回遊型の生活史の決定は、回遊開始の半年前の秋に行われる。本研究では、幌内川5kmの区間においてサクラマス幼魚5000個体の個体追跡を行い、秋から春の成長率と、降海の開始タイミングを調べた。
回遊前の潜在的な回遊型は、サイズ依存的な成長様式を示した。予測の通り、秋の時点で小さい潜在的な回遊型個体ほど、その後回遊開始までの成長率が高かったが、残留型はそのようなパターンを示さなかった。さらに、回遊直前に小さい潜在的な回遊型個体ほど、降海タイミングが遅く、回遊前の川で成長期間を長くとっていた。つまり、これら2つのサイズ依存的な成長メカニズムにより、回遊型は回遊開始前にある程度の大きさに達してから回遊を始めることが明らかとなった。