| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-092 (Poster presentation)
タイワンシジミCorbicula flumineaは、自家受精と他家受精をする雌雄同体集団として知られていたが、近年、雌雄同体と雄からなる雄性異体集団の存在が報告された。このような性システムの移行は、タイワンシジミが受精時に卵の核ゲノムを極体として放出し精子のゲノムのみで個体が発生する繁殖方法(雄性発生)をもち、他家受精した場合に雄親しか子を残せないため、利己的な雄が進化した結果だと考えられている。しかしタイワンシジミにおいて、雄や雌雄同体の生活史や繁殖生態に関する研究はほとんど進んでいない。そこで本研究では、タイワンシジミの雄性異体集団を対象に、飼育と親子判定により雄と雌雄同体における繁殖生態を調べ、両者の共存メカニズムを考察した。
室内飼育の結果、成貝による稚貝の保育や水中への稚貝の放出が確認され、その内の59個体の成貝について性判定した結果、雄は4個体(7%)であった。雌雄同体の雄投資比(生殖巣に占める精巣の割合)は、0-0.94(平均0.40)と大きくばらつき、0.5を超える個体も32%存在した。マイクロサテライト解析によって、成貝と稚貝の遺伝子型を決めた結果、稚貝を保育する成貝30個体の他家受精率が0-100%と大きな幅があることが分かったが、雄の繁殖は確認できなかった。
以上のことから、雌雄同体は、精子の一部を自家受精に費やして確実に自身の子を残そうとする一方で、余剰精子を用いて他個体の卵を授精させる機会を狙っていると推測された。他の雌雄同体動物に比べて高い雄投資比は、激しい精子間競争の帰結であると思われる。一方雄は、雌雄同体の卵を乗っ取れるか否かに、繁殖成功が依存する。実際には、雄性発生という繁殖様式と大量の精子生産から推測されるように雄が圧倒的に有利という訳ではなく、自家受精により雌雄同体が受精効率の上で有利であるため、雄性異体集団が維持されていると推測される。