| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-093 (Poster presentation)
生物の中には、著しい体色変異をもつ種が存在する。著しい体色変異は種内の多様性を象徴する形質変異であるため、その維持機構の研究が盛んに行われてきた。過去の多くの研究では、体色変異が選択によって維持されているということが指摘されてきた。一方で、体色に対して選択が作用せずとも体色変異は維持されるかもしれない。そのため、個々の事例において、選択の可能性を検討することが体色変異の維持機構を理解する上で重要である。本研究では、エゾアカガエル(Rana pirica)幼生に見られる著しい体色変異を研究した。両生類の体色変異の研究は数多く存在するが、その多くは成体を対象としており、幼生の体色変異に関する知見はほとんどない。
エゾアカガエルは1匹のメスが多数の卵を1つの卵塊として産み、さらに複数のメスが同じ場所に産卵するため、孵化した幼生は大きな集団(局所集団)を形成する。私達はエゾアカガエル幼生が多様な色を持つことを発見した。まず体色変異のパターンを調べるため、野外で個別に卵塊を採取し、幼生の体色を計測した。その結果、体色は出自の卵塊によって異なるが、同じ卵塊内の兄弟ではほとんど変わらないことがわかった。さらにこの体色変異は、胚から遊泳能力を持つ幼生の段階までみられ、後肢を発達させる頃には不明確になることを明らかにした。
次に、体色に対する選択の可能性を検討した。野外で局所集団の体色変異のパターンを調べ、それが過去の体色変異の研究において注目されてきた選択のシナリオ(分断選択、負の頻度依存選択、超優性選択、多様化選択)から予測されるパターンと合致するのかを確かめた。ブートストラップ法を用いた検定により予測を検証した結果、局所集団の体色変異のパターンからは選択が作用している証拠は得られなかった。この体色変異の維持機構を理解するためには、選択的な機構と非選択的な機構の両方に注目すべきである。