| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-095  (Poster presentation)

佐賀平野クリークにおけるアリアケスジシマドジョウの生活史および繁殖生態の解明
Life history and reproductive ecology of Cobitis kaibarai at agricultural irrigation channels in Saga Plain

*尋木優平, 明石夏澄, 原本すみれ, 松田浩輝, 徳田誠(佐賀大学)
*Yuhei TAZUNOKI, Kasumi AKASHI, Sumire HARAMOTO, Hiroki MATSUDA, Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

近年、地球規模での生物多様性の減少が問題となっており、とくに淡水魚では多くの種が絶滅の危機に瀕している。アリアケスジシマドジョウは、九州北部の有明海流入河川にのみ分布しており、生息地は常に流れのある水域と、梅雨時期にのみ出現する一時的な水域に限られる。近年、佐賀平野全域で行われているクリーク(農業用水路)改修の進行に伴い、本種の生息状況の悪化が報告されている。本種は環境省レッドリスト2020において絶滅危惧種ⅠBに指定されており、保全対策を講じることが喫緊の課題である。しかしながら、本種の詳細な生態に関しては未解明であり、具体的かつ効果的な措置を取る際の支障となっている。そこで、本研究ではアリアケスジシマドジョウの生活史と繁殖生態を明らかにすることを目的とした。
佐賀市内の2地点でサデ網を用いた標識再捕調査と定量捕獲調査を毎月実施した。また、推定される産卵時期にはメス腹部の直径の変化を定期的に調査した。さらに、産卵場所を特定するため、多久市のクリークにおいて浅瀬と深瀬で本種の卵や仔魚の捕獲調査を実施するとともに、野外から卵を採集し、飼育して得られた孵化時の体サイズと野外採取された稚魚の体サイズ変化のデータから、直線回帰により孵化日を推定した。
標識再捕調査の結果から、本種の大部分は1年1世代であることが示唆されたが、2年以上生きる個体も一部確認された。定量捕獲調査の結果、捕獲個体数は冬季に多く、夏季に少なくなったが、これは、夏季に成魚の減耗が生じているためと考えられた。メス腹部の直径の推移および孵化日の推定結果から、本種の産卵時期は6月上旬であると考えられた。また、多久市における野外調査の結果から、本種の産卵場所は増水時に出現する浅瀬であると考えられた。
以上より、本種は基本的に年魚であり、増水時に出現する浅瀬で産卵するのに特化した種であると考えられた。


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