| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-099  (Poster presentation)

ホネクイハナムシの生活環と基質選択
Life cycle and substrate selectively of Osedax japonicus

*松岡沙紀子(奈良女子大学), 宮本教生(海洋研究開発機構), 山科友紀(奈良女子大学), 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Sakiko MATSUOKA(Nara Women's Univ.), Norio MIYAMOTO(JAMSTEC), Yuki YAMASHINA(Nara Women's Univ.), Yoichi YUSA(Nara Women's Univ.)

鯨骨は、資源の乏しい深海底において貴重な有機物で、時空間的に非常に局在する資源である。そこには鯨骨生物群集という特異な生物相が発達するが、その構成種では、生活環を含む生態がほとんど判明していない。ホネクイハナムシ Osedax japonicus(環形動物:シボグリヌム科)は鯨骨生物群集の代表種であり、唯一室内で長期飼育が可能である。しかし、本種が定着・成育可能な基質として、鯨と豚の骨以外は報告されていない。そこで本種の継代飼育を行い、さまざまな動物の骨への幼生の定着を試み、定着後の成長や繁殖といった生活史形質についても明らかにした。その結果、鯨骨や豚骨以外に、哺乳類(鹿)、爬虫類(アカウミガメ)、鳥類(カツオドリ)、魚類(マダイ)といったさまざまな脊椎動物の骨への定着・繁殖に初めて成功した。それらに定着した雌の体長および卵数、およびそれらの時間的変化については、基質による差異がみとめられた。卵サイズについては同一基質内でも変動が大きかったものの、基質による違いがみられる場合もあった。以上より本種は、海生かどうかに関わらず多様な脊椎動物の骨を利用し、基質に応じて生活史を可塑的に変化させられることが判明した。従来、ホネクイハナムシ類は鯨骨など非常に局所的で稀な資源を利用していると考えられていたが、資源の乏しい深海において可能なものはできる限り利用していることが示唆された。今回の発見により、深海で稀に存在する鯨骨間を幼生が長距離分散するという従来の分散モデルも再考を要すると思われる。


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