| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-105  (Poster presentation)

変形菌の変形体における自他認識行動の研究
Allorecognition behavior of slime mold plasmodium

*増井真那, 冨田勝(慶應義塾大学)
*Mana MASUI, Masaru TOMITA(Keio Univ.)

変形菌(真性粘菌)の変形体は同種異個体と融合できることが知られている.この融合判断には細胞膜の相互接触によらず,変形体が周囲に広げる粘液への接触で行われていることが示されてきたが,この自他認識(allorecognition)の実態や機構については未だ十分に理解されていない.そこで本研究ではフィールドに存在する同種異個体間の自他認識上の関係把握を目的として,フィールドで採取されたPhysarum rigidumイタモジホコリ変形体の同種異個体を遭遇させて融合/回避いずれの関係にあるのかを観察した.またこれに際し,DNAバーコーディングによる変形体の種同定を試みた.異なるフィールドで採取された5株の総当たり10組合せでの結果は,採取地間距離が約20 kmから670 km離れた組合せ全てが回避関係にあり,融合関係は採取地間距離が約120 mと例外的に近い組合せのみであった.一方,単一フィールド内の複数エリアで採取された7株の21組合せでは融合関係が4組得られ,それらは同一エリア内で生じやすい傾向が有意であったが,融合/回避の両関係が採取地間距離0 mから約400 mの範囲に混在した.さらに3個体間において2関係は融合だが1関係のみ回避となる「不完全な三角関係」が見られた.またフィールドサンプリングされた変形体を形態から種同定するのは困難とされてきたが,DNAバーコーディングによる種同定の実現性を示すことに成功し,変形体を使用した研究の効率化が見込まれる.確率的に出現しにくいとされる融合関係が複数見出され,単一フィールドにおける複数系統の融合関係の存在が確認されたことから,自然環境において融合して1つの自己となれるもの/なれないものが近接して存在している様が見えてきた.さらに「不完全な三角関係」は自他認識における未知の要素の存在を示唆しているとも考えられる.


日本生態学会