| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-109  (Poster presentation)

クチキゴキブリの雌雄が行う翅の食い合い:その翅、どこから食べる?
Mutual sexual cannibalism of a wood-feeding cockroach: Left or right? That is the question.

*大崎遥花, 粕谷英一(九州大学)
*Haruka OSAKI, Eiiti KASUYA(Kyushu Univ.)

共食いは同種個体を食う現象で、原生動物から哺乳類まで幅広く見られる。中でも特に配偶相手を食うものを性的共食いと呼ぶ。既知の性的共食いは、どれも片方の性が相手を一方的に食う例であり、雌雄が互いに食い合う例はなかった。その唯一の例外が、リュウキュウクチキゴキブリでオスとメスが配偶時に互いの翅を食い合う現象である。本種の新成虫は長い翅を持ち、繁殖時期には飛翔するが、雌雄が出会うと配偶時に相手の翅を付け根近くまで互いに食い合い、その後両親で子育てを行う。翅の食い合いは両性による共食いの唯一の例であり、本種の生態から雌雄の利害対立が存在しない可能性がある。野外で雌雄の利害対立のない状況の実証例はなく、この状況下で起こる配偶行動として翅の食い合いを示すことで新しい繁殖戦略の存在を明らかにできる可能性がある。発表者らが翅の食い合いを観察したところ、翅は必ずしも先端から食われていく訳ではなく、翅の側方から食われることもあることが判明した。
翅の食い方は、食う側と食われる側の相互作用の結果であり、協力関係・対立関係など2個体間の関係が反映されると考えられる。どの個体も同じように翅を食うなら、相手の協力を得られる食い方が決まっているか、相手は常に協力的で食う側が食いやすい部位から食っているなどの可能性がある。一方個体により食い方が違うのなら、どんな食い方でも相手は協力的であり食う側の空腹状態や相手との位置関係によって食う位置が決まるか、相手は対立的であり相手の翅を食える数少ないタイミングでの相手との位置関係で食う箇所が決まるなどの可能性が考えられる。
本研究では、翅をどのような順序で食い進めていくかについて定量的に解析した。その結果、相手の翅を食い始めるとき翅の先端から食う場合もあるが、翅の側方(左右どちらか)から食う場合もあり、比較すると側方から食う個体がより多いことが明らかになった。


日本生態学会